賃貸物件の火災保険の比較の仕方
借主向けに賃貸のアパートやマンションの火災保険選びのポイントなどを紹介します。
家財の補償が基本となる賃貸住宅の火災保険とは
賃貸のアパートやマンションでも普通は入居時や更新時に火災保険に入ることが条件づけられているもの。賃貸住みだとあまり気にもせず保険料を払っているかもしれませんが、これは借主本人のための補償というより、大家側がリスク回避のために賠償責任を借主に負ってもらうことが主目的となっています。いうまでもなく賃貸物件の所有者は大家側であり、建物自体の火災保険は所有者もしくは管理会社が別途加入しているのが一般的です。
補償内容の選択ポイント
自分のための補償という点では家財保険に入ることになりますが、共同住宅で暮らすという点では他の入居者に迷惑をかけた時のカバーという点も忘れてはいけません。
まずは家財保険ですが、安アパートに住んでいるヒトがわざわざ家財保険に加入するのもナンセンスなので、この場合はある程度資産価値のある家財を所有していることになるでしょう。それが最新設備のマンションなら水災や盗難、騒擾などは外して、水濡れ・水漏れなどはカバーしておくのがベター。子どもがいるファミリーなら、破損・汚損なども加入しておくといいかもしれません。
他社への迷惑に対する備えとしては借家人賠償責任や個人賠償責任といった賠償責任保険を付けること。自室が失火の原因となったり、漏水で階下の住人に被害を及ぼしたような場合、この賠償責任によって保険金がおりれば、複数の関係者にとっても救いになるはずです。
契約や保険金額の選択ポイント
賃貸物件の契約を結ぶ際、不動産会社に言われて申し込む火災保険は、2年間で1万円から2万円といったところかと思います。賃貸で暮らすヒトの多くは自分で火災保険を選んだことがないため、その保険料が適正かどうかまで気にしないのが普通。ただし、保険金額をよく見ると、単身者向け住居で家財保険が何百万円にも設定されていることもあるので、これは分相応レベルの設定にすれば多少なりとも保険料の節約になります。
特約の選択ポイント
賠償責任保険はそれだけを契約できるものではなく、火災保険とのセットになるのが普通。そのため、保険をかけるほどの家財はなくても、借主は火災保険に加入して賠償責任保険を特約付帯させることになるわけです。
個人賠償責任保険は必要?
失火責任法では補償の義務がない
火災による損害の賠償責任を定めた法律「失火責任法(失火法)」によると、賃貸住宅を借りている人が火災を起こしてしまっても、重大な過失が認められない限りは補償の義務はありません。となると、「賃貸住宅の場合は火災保険に加入する必要はないのでは?」と考えてしまうかもしれませんが、それは間違っています。賃借契約においては、契約満了後は物件に生じた損耗を原状回復して返却するという契約が結ばれているはずです。火災による被害を補償せずに退去した場合、原状回復の「債務不履行」となり、民法415条の債務不履行責任を問われることとなります。
水漏れに備えて加入が安心
賃貸住宅で起こる火災を補償する保険として、借りる人が「個人賠償責任保険」を利用することが一般的となっています。この「個人賠償責任保険」は、最近補償の範囲が火災だけでなく破損・爆発事故・水漏れなどにまで及んでいるのが特徴です。
「個人賠償責任保険」を火災のための保険と考えると「火災はめったに起こらないのに…」と感じてしまうかもしれませんが、一方で水漏れ事故は賃貸物件では良く起こります。洗濯機の故障で床が水浸しになった・水槽が割れて階下に水漏れしたなどの事故に備えることができるので、いざという時に頼りになることでしょう。
必要な家財保険の目安
家財の範囲
賃貸物件を借りる人が火災や水災に備えて契約する家財保険は、家財への損害を補償するためのものですが、ここでの「家財」とは居住に必要とする家具家電や衣服など、建物以外の資産のことを指します。
しかし、全ての持ち物が「家財」として家財保険の保障を受けられるわけではありません。たとえば、自動車(原付バイクを除く)、有価証券や通貨、生き物、データやプログラムなどは家財には含まれないため注意しましょう。また、火災などのトラブルが起こった時に家の外に持ち出していたものについては家財保険の補償範囲に含みません。
必要な保険料
家財保険の保険料は、補償金額をいくらに設定するかによって大きく変動するものです。一般的に家が広いほど補償すべき家財は多くなるため、保険料は高くなります。大まかに専有面積33平米程度の物件では340万円、66平米程度の物件では620万円、99平米程度の物件では860万円程度が目安です。ただし、実際に所有している家財より補償金額が多い保険に加入しても、損害額以上の補償を受けることはできません。保険料設定の際は、ご自分の所有する家財の額を見極めながら補償内容を検討することが大切です。
賠償責任保険付き火災保険を自分で探せば保険料節約になる
賃貸住宅の火災保険は何も不動産会社指定の商品である必要はありません。賠償責任保険がセットになっていて、大家側の求める補償範囲をカバーしているなら、自分で選んだ火災保険でも支障はないでしょう。
なお、賃貸物件だと2年単位の契約更新が一般的で、不動産会社は保険代理店として少額短期保険会社の火災保険を紹介してくるケースが多々あります。これには当然、代理店マージンが上乗せされていて、保険金額の設定などもあまり自由度がなく、契約が簡単だというのが一番のメリット。もし、保険料を少しでも節約したいなら、賠償責任保険を付けられる火災保険をネットで調べてみることです。火災保険の一括見積もりサイトには、賃貸住宅向けの家財保険カテゴリーもあるので、調べるのにさほど手間はかかりません。
賃貸住宅における賃借人賠償責任保険とは
借家人賠償責任保険とは、賃借人が家主に対して負う「原状回復義務」をカバーする保険。たとえば賃借している部屋が火災に遭ったときに、部屋を元通りに修理するために要するお金(原状回復のためのお金)を、賃借人賠償責任保険の保険金が負担します。火災に限らず、水害などで部屋が水浸しになったときなどにも、借家人賠償責任保険の適用対象となります。
失火責任法との関係
火災を原因に他人の財産に損害を与えた場合、火元となった人に「重大な過失」がなければ、被害者に対して損害を補償する義務を負いません。いわゆる「失火責任法」という法律による定めです。
よって、一見、賃借している部屋に火災で損害を与えたとしても、「失火責任法」の適用によって賠償責任を負わなくても良いような気がします。
しかしながら、この認識は誤り。なぜならば借主は、家主に対して原状回復義務という債務を負っているからです。借主が原状回復義務を拒絶した場合、借主には「債務不履行」が適用されます。
通常は家財保険の特約
借家人賠償責任保険は、通常の火災保険とは異なり、単独で設定されている保険ではありません。一般には、家財保険の特約という位置づけとなっています。
よって、借家人賠償責任保険に加入するには、その前提として家財保険に加入していることが必要。特約なので加入するか否かは自由ですが、万が一の事態に備えて、賃貸住宅に入居する際にはぜひ加入しておきたい特約です。
賃貸住宅の火災保険に加入する際の3つの注意点
賃貸住宅に入居する際の火災保険の選び方について、その注意点を3つ確認しておきましょう。
重複加入に注意する
賃貸住宅から別の賃貸住宅へ転居する際、2つの火災保険に重複して加入している状態になることがあるので、注意してください。
たとえば、以前住んでいた賃貸住宅で2年契約の火災保険に加入したとします。ところが急な転勤によって、入居から1年で別の賃貸住宅へと転居。そこでまた新たな火災保険に加入したとします。この場合、2つの火災保険に同時加入していることが分かるでしょう。
2つの火災保険に重複加入することは、違法ではありません。ただし、万が一火災等に遭ったとしても、保険金をもらえるのは、2つの火災保険のうちのどちらか一方のみ。2つの火災保険の保険金を足した額が振り込まれるわけではありません。すなわち、保険料のムダ払いとなってしまう、ということです。
まだ火災保険の期間が残った状態で転居が決まった場合には、加入中の保険会社に連絡をしましょう。解約手続きをすることで、残りの期間に該当する支払い済の保険料が返金されます。
不動産会社が紹介する火災保険はいったん保留にする
不動産会社の仲介によって賃貸住宅への入居が決まった場合、かならず不動産会社から特定の火災保険に加入するよう勧められます。大半の方は、その場で不動産会社から勧められた火災保険に加入することでしょう。
しかしながら賃借人は、かならずしも不動産会社が勧めた火災保険に入る義務はありません。自分で保険会社を訪ね、不動産会社を通さずに火災保険に加入することもできます。
不動産会社が勧めてくる火災保険が、かならずしも賃借人のニーズに合ったものとは限りません。不要な補償や特約が付加されて、保険料が高額になっている可能性もあります。
不動産会社から特定の火災保険を勧められた場合には、いったん契約を保留し、他の火災保険と比較したうえで加入を検討するようにしましょう。
地震保険控除の手続きを忘れずに行なう
火災保険と併せて地震保険にも加入した場合には、年末調整や確定申告で「地震保険料控除」を申請することを忘れないようにしましょう。
国税庁では、地震保険に加入した方を対象に「地震保険料控除」という項目を設定しています(火災保険料控除はありません)。支払った地震保険料のうち規定の金額を「地震保険料控除」として申告をすれば、所得税の一部還付、および住民税・保険料の減額が適用されます。
還付金や減額金は決して大きくはありませんが、少しでも節約につなげるために、ぜひ「地震保険料控除」を申告するようにしましょう。
不動産会社で火災保険の契約をするメリットデメリット
先に「不動産会社が紹介する火災保険はいったん保留にする」と説明しました。確かに、いったん保留にはすべきですが、「加入しないほうが良い」というわけではありません。不動産会社が勧める火災保険のメリット・デメリットを理解したうえで、自分にとって納得のできる方法で火災保険に加入すると良いでしょう。
不動産会社で火災保険に入ることのメリット
手間がかからない
不動産会社で火災保険に入ることの最大のメリットは、自分で火災保険を探す手間がかからない、ということでしょう。
賃貸住宅への入居手続きを行っているということは、ほかにも、たとえば引越し作業だったり会社の引継だったりなど、やることがたくさんあるはずです。余裕を持って火災保険を比較検討する時間がない、という方も多いことでしょう。
自分で探す時間がない方や、探すのが面倒という方には、不動産会社が勧める火災保険に入ったほうが良いかも知れません。
安心感がある
不動産会社が勧める火災保険は、他の賃貸住宅に入居している大勢の人たちが加入している保険です。その補償内容や保険料に大きな問題があれば、入居者からのクレームを通じ、不動産会社ではその火災保険を扱わなくなるでしょう。
逆に言えば、不動産会社が扱っている火災保険は、おおむね問題がないということ。素人が自力で探すよりも、安心かもしれません。
不動産会社で火災保険に入ることのデメリット
不要な補償が付いていることがある
不動産会社が勧める火災保険の中には、不要な補償が付いたものもあります。不要な補償が付くと、当然ながら支払う保険料は高くなります。
たとえば水災補償。近年、毎年のように全国のどこかでゲリラ豪雨等による水災が発生しているため、水災補償は、どんな世帯にでも必要不可欠な補償にも思えます。しかしながら、高台にある高層マンションの高層階を借りる人にとって、本当に水災補償は必要でしょうか?
水災補償の有無によって、火災保険料は年間で1万円ほど安くなることもあります。
必要な補償が付いていないことがある
上記とは逆に、その世帯にとっては必要な補償であるにもかかわらず、不動産会社が勧める火災保険に、その補償が入っていないことがあります。
必要な補償は何なのかを改めて考え、しっかりと補償内容を確認してから加入手続きをすることが大切です。
自分で火災保険を探すことのメリットデメリット
上述のように、不動産会社が勧める火災保険には加入せず、自分で保険会社や保険代理店を尋ねて火災保険に加入する方法もあります。自分で火災保険を探すことのメリット・デメリットについて確認しましょう。
自分で火災保険を探すメリット
より自分の希望に合った火災保険を探すことができる点が、自分で火災保険を探すことの最大のメリット。基本補償内容を始め、特約や保険料、保険金など、もっとも納得のできる火災保険に加入することができます。
自分で火災保険を探すデメリット
自分に最適な火災保険を探すには、手間や時間がかかります。火災保険に詳しい方ならば手間ではないかも知れませんが、大半の人にとっては手間・時間のかかる作業となることでしょう。
手間を最小限にして最適な火災保険を選ぶならば、さまざまな保険会社の商品を一括で扱っている相談窓口等を利用したほうが良いでしょう。