中古マンションの火災保険選び
ここでは、中古マンションにおける火災保険の選び方について詳しく解説しています。
中古マンションであれ新築マンションであれ、火災保険の選び方に大差はありません。物件の特徴や地理的な要因を考慮し、必要な補償を入れつつ不要な補償を外す、という視点で火災保険を選びましょう。補償の範囲は各世帯で自由に決めて問題ありませんが、万が一の場合に備えて、保険金額は満額で契約することをお勧めします。
中古マンションの火災保険選びのポイント
中古マンションの火災保険を選ぶ際、大前提としておきたい3つのポイントがあります。
- 補償内容を取捨選択できる火災保険を選ぶ
- 新価方式の火災保険を選ぶ
- 実損分の保険金が下りる火災保険を選ぶ
以下、それぞれについて具体的に確認していきましょう。
補償内容を取捨選択できる火災保険を選ぶ
補償内容の観点から火災保険選びをする際、もっとも理想的なタイプの保険が「必要な補償がすべて入っている」「不要な補償が入っていない」「パッケージ型」の3つの要素が整った商品です。
火災保険なので、必要な補償が入っていることが前提です。また、保険料の節約のためには、可能な限り不要な補償の入っていないものを選びたいものです。さらに、補償の取捨選択タイプの保険よりも、パッケージ型の保険のほうが保険料は安いため、できれば後者を選ぶのが理想です。
しかしながら、これらすべてを満たした好都合な火災保険に巡り合うことは、なかなか難しいでしょう。
そこで、少しでも保険料を押さえつつ必要な補償を整えるために、「補償内容を取捨選択できる火災保険を選ぶ」という基準が大事。必要な補償を入れるとともに不要な補償を外し、タイトな形にカスタマイズできる火災保険を選びましょう。
新価方式の火災保険を選ぶ
保険金額の設定基準には、新価方式と時価方式の2種類があります。新価方式とは、現在住んでいるマンションと全く同じマンションを購入すると仮定した場合に、必要となるお金を全額補償する方式のこと。時価方式とは、現在住んでいるマンションから劣化分を差し引いた金額(現在評価額)を補償する方式のことです。
中古マンションの場合、新築マンションに比べて劣化が進んでいます。そのため、時価方式を採用する火災保険を契約すると、保険金額の面で不利になってしまいます。
なお、近年の火災保険の大半が新価方式を採用していますが、念のため、契約の際には保険金額の算定方式をきちんと確認しておきましょう。
実損分の保険金が下りる火災保険を選ぶ
実際に下りる保険金の計算方法には、「実損方式」と「比例てん補方式」の2種類があります。中古マンションを購入して火災保険に入る際には、これらのうち、「実損方式」を採用している火災保険を選びましょう。
実損方式とは
実損方式とは、文字通り、損害の実損額が保険金として補償される方式のこと。具体例は次の通りです。
- 評価額2000万円の中古マンションに保険金額を1000万円と設定
- 火災により200万円分の損害が生じた
- 保険金は実損額の200万円
比例てん補方式とは
比例てん補方式とは、評価額と保険金額の割合に応じた保険金が補償される方式のこと。具体例は次の通りです。
- 評価額2000万円の中古マンションに保険金額を1000万円と設定
- 火災により200万円分の損害が生じた
- 保険金は「実損額200万円×1000万円÷2000万円」で100万円
なお、現在の火災保険の大半は、保険金の支払い方式において実損方式を採用しています。ただし保険契約の際には、念のため保険金の計算方法を確認しておいたほうが良いでしょう。
中古マンションの火災保険選びで注意したい点
保険料の節約を目的に、必要な補償を外していくという考えは賢くありません。中古マンションの火災保険を選ぶ際には、外しても良い補償と外してはならない補償をよく考え、いったん目先の保険料のことを考えないようにすることが基本的な姿勢です。
銀行や不動産会社が提案する火災保険はいったん保留する
中古マンションを購入する際、ローンを組んだ銀行や仲介してもらった不動産会社が、特定の火災保険への加入を勧誘してくることがあります。
確かに、ローンを組む際には火災保険への加入はほぼ義務となっていますが、かならずしも銀行や不動産会社が指定する保険商品を利用しなければならない、というわけではありません。特定の火災保険を提案された場合には、いったん保留しましょう。
これら銀行や不動産会社から提案される保険商品の中には、不要な補償が入っているものも少なくありません。たとえば、マンションの高層階に水災補償は不要でしょう。
もし特定の火災保険を提案された場合には、その担当者と補償内容をよく確認し合い、不要な補償を外したうえで契約をしてください。
補償を外しすぎないようにする
火災保険に加入するにあたり、火災補償はベースとなる補償なので、これを外して契約することはできません。一方で、保険商品にもよりますが、火災補償以外の補償については、契約者の任意で外すことができます。
ただし、保険料の節約のために何もかもを外してしまうのは、決して良い考えではありません。万が一に備え、家財道具一式の損害を補償する家財保険、および地震による損害を補償する地震保険にも併せて加入することを強くお勧めします。
ケース別おすすめの補償モデル
中古マンションの火災保険選びの補償モデルとして、高層階・中層階・低層階の3つに分けて、それぞれに適した補償内容を見てみましょう。
なお、以下にご紹介するモデルは、あくまでも一例です。個別でまったく異なる補償を必要とする場合もあるので、実際に火災保険を契約する際には、よく専門家と相談のうえで補償内容を決めるようにしましょう。
高層階の中古マンションの場合
基本補償 | 火災・破裂・爆発 |
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オプション | 個人賠償責任補償特約/家財保険/地震保険 |
高層階のマンションは、中層階以下の部屋や一戸建てなどに比べて、一般に安全性が高いと考えられています。よって物件にもよりますが、不要な補償を削ることで、保険料を限りなくタイトにできる可能性があるでしょう。
上記のモデルでは、基本補償として「火災・破裂・爆発」のみしか設定していません。落雷や風災、雪災、飛来、盗難など、一般的な火災保険の基本補償となる項目を大胆に外しました。外した理由は、高層階においては、いずれのリスクも発生可能性が非常に低いからです。
一方で、自宅からの落下物や、日常の不慮の出来事による他人の身体・財産の損害のリスクを考慮し、オプションとして個人賠償責任補償特約を付けています。
仮に上記の内容で火災保険を契約した場合、保険料の目安は10年一括で25,000円程度です。
中層階の中古マンションの場合
基本補償 | 火災・破裂・爆発/風災・雹(ひょう)・雪災/水漏れ |
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オプション | 個人賠償責任補償特約/家財保険/地震保険 |
中層階のマンションは、高層階に比べて各種の損害リスクが高くなります。火災の発生リスクは高層階と変わりませんが、物件に応じ、他の災害リスクの可能性も考慮しておきましょう。
なお、マンションの築年がやや古い場合、階層の高低に関わらず、階下に漏水被害を起こしてしまうリスクがあります。その場合の損害賠償に備える意味も込め、個人賠償責任補償特約は付帯させておいたほうが良いでしょう。
この例では、水漏れによる自室への被害にも備え、基本補償に「水漏れ」を入れています。
上記の内容で契約した場合、保険料の目安は10年一括で43,000円ほどです。
低層階の中古マンションの場合
基本補償 | 火災・破裂・爆発/落雷/風災・雹(ひょう)・雪災/水災/水漏れ/盗難 |
---|---|
オプション | 個人賠償責任補償特約/家財保険/地震保険 |
低層階の中古マンションは、高層階や中層階よりも、さらに各種のリスクが高くなります。ご紹介した例で注目すべきは、水災補償と盗難補償です。
一般にマンションの場合、水災リスクは低いとされています。しかしながら、自治体の洪水ハザードマップでハイリスクな場所にあるマンションで、かつ低層階の場合には、十分に水災リスクがあると考えてください。
また低層階のマンションは、個別住宅と同様に、空き巣などの盗難被害のリスクがあります。盗難補償の加入も検討すべきでしょう。
上記の内容で火災保険を契約した場合、保険料の目安は10年一括で70,000円程度です。
中古マンションの火災保険で補償される保険金の額
火災保険で補償される保険金の額の大前提ですが、たとえ火災で物件がすべて失われたとしても、実際の価値以上の保険金が支払われることはありません。どんなに高額な保険料を支払っていたとしても、2000万円の価値の中古マンションには、2000万円までしか保険金が支払われない、ということです。
ちなみに、この保険金の限度額のことを「保険金額」と言います。また、実際に支払われるお金のことを「保険金」と言います。改めて両者の違い明確にしておきましょう。
以下では、中古マンションの火災保険における補償額に関連し、詳しく解説します。
建物・家財の評価額
火災保険では、建物や家財の評価額の基準として、新価方式という考え方が採用されています。
新価方式とは、「まったく同じマンション、まったく同じ家財を新たに購入した場合に必要となる金額」を保険金額とする考え方です。新価2000万円のマンション・家財と評価され、かつ保険金額2000万円で契約した場合、それらすべてを火災で失うと2000万円の満額が保険金として支払われます。2000万円のうち、火災による損害額が500万円であれば、500万円が支払われます。
なお、中古マンションの「建物」の新価算定は、そのマンションの専有部分のみを対象に計算されます。ただし保険商品により、占有部分を「内壁の表面から」とする考え方(上塗基準)と、「壁の中心から」とする考え方(壁芯基準)の2通りがあります。主流は上塗基準です。
保険金額の設定
建物や家財の新価以上の金額を、保険金額として設定することはできません。よって、2000万円の新価と判定されたマンションの保険金額は、最大で2000万円までです。
一方、保険金額の設定には上限があるものの、下限はありません。2000万円の新価のマンションに対し、1000万円の保険金額を設定することも可能です。
ただし、新価を下回る保険金額を設定した場合、支払う保険料は安くなるものの、万が一の際に支払われる保険金も安くなります。可能であれば、新価に対して満額の保険金額を設定すべきでしょう。
なお、地震保険は「火災保険の保険金額の50%」までしか設定することができません。併せて理解しておきましょう。
実際に受け取れる金額
火災等の災害でマンションに損害が生じた場合、支払われる保険金は実損分のみ。たとえ保険金額が2000万円であったとしても、100万円分の損害しか発生していない場合には、保険金は100万円となります。
ただし、床面積の80%以上に損害が生じた場合には「全損」と認定され、保険金額の全額が支払われます。
なお地震保険では、損害の規模に応じ、保険金額に対して次のような保険金が支払われるという決まりがあります。
- 全損…全額
- 大半損…60%
- 小半損…30%
- 一部損…5%
火災保険と併せて覚えておきましょう。