火災保険の相続手続きについて
ここでは、火災保険に加入中の被保険者が死亡した場合の、必要となる火災保険の名義書換手続き等について詳しく解説します。あわせて、火災保険の相続によって生じる相続税に関して、および、相続放棄をする際における注意点についても確認してみましょう。
相続が発生した際に必要となる火災保険の手続き
火災保険に加入中の被保険者が死亡した場合、相続人は死亡した本人が加入していた火災保険の名義変更手続きを行なう必要があります。被保険者とは別居中で、なおかつ被保険者の死亡にともなって家屋を手放す場合には、相続人は火災保険の解約手続きを行ないましょう。火災保険の名義変更、または解約を行なう場合には、相続人が保険代理店等で手続きを行ないます。また、火災保険の相続は、契約者が生存していても「贈与」という形で行われることもあります。
名義変更や解約で必要となる書類
火災保険の名義変更や解約手続きに必要な書類は、各保険会社によって異なります。二度手間にならないよう、事前に保険会社に確認して漏れなく用意しておくようにしましょう。一般には、次の書類が必要となります。
- 被相続人の死亡が分かる書類(一般には除籍謄本)
- 相続人本人の戸籍謄本
- 相続人の実印と印鑑証明
- その他、保険会社が指定する異動申請書等[1]
名義変更手続きの方法
火災保険の名義変更手続きは、書類さえ揃えば特に難しくはありません。「掛け捨て型」の火災保険であれば、「火災保険契約内容変更届出書」という書類に、必要事項を記入すればそれで終了です。掛け捨て型の場合は特に用意する書類も必要なく「保険料の支払者の変更」という扱いになります。
ただし、「積み立て型」の火災保険に加入していた場合は、少々手続きが厄介になります。それは、積み立て型は支払った保険料を積み立てるため貯蓄性があり、その貯蓄分が相続財産となるからです。相続財産となるからには、先にご紹介した必要書類の他に、他の相続人の承諾を得た証拠として、署名や実印が必要となります。
火災保険が満期になっている場合は満期返戻金も相続財産となります。また、解約する場合は、積み立て型も掛け捨て型も、両方とも解約返戻金が相続財産として扱われます。
相続人が受け取った「解約返戻金」は相続財産とみなされる
一般に火災保険は、1年契約、または数年契約を交わし、契約時に保険料を一括払いしています。そのため、保険期間の途中で契約を解除した場合、保険料を余分に払っている格好となります。
通常、この余分に払った保険料については、被保険者が指定する口座に「解約返戻金」として振り込まれることになるのですが、被保険者が死亡している場合には、その口座に振り込むことはできません。そこで保険会社は、所定の手続きを踏んだ相続人の口座に「解約返戻金」を振り込むことになります。
「解約返戻金」は相続税の課税対象となる
相続人の口座に振り込まれた「解約返戻金」については、相続税の課税対象とするかどうか、長く議論されてきた経緯があります。しかしながら現在では、通達によって「解約返戻金」は相続財産とみなされることになっているため、「解約返戻金」を手にした相続人は、相応の相続税を納めることになります。
「解約返戻金」に対する相続税は心配するに及ばず?
ところで、相続税の納税義務が生じる相続財産の下限は、以下で計算されます。
・3000万円+法廷相続人×600万円
たとえば相続人が配偶者、子供二人の計3名だった場合は、相続財産が次の金額に達しない限り相続税は非課税になる、ということです。
・3000万円+3名×600万円 = 4800万円[1]
ちなみに、2013年に行なわれた旭化成ホームズの調査によると、65歳以上の世帯の平均相続財産(建物、土地、金融資産、保険などを全て含む)は4743.3万。多くの相続人は、相続税を納める必要がないか、もしくは、納めたとしても少額で済んでいるということになります。まして火災保険の「解約返戻金」が莫大な金額になることは想定しがたいので、現実的には「解約返戻金」に対する相続税の心配は無用と考えるべきでしょう。
相続放棄した人は火災保険の名義変更ができない
被相続人が死亡した場合、相続人は必ず財産を相続しなければならない、というわけではありません。家庭裁判所において相続放棄の申請手続きを行なえば、相続人は被相続人の財産を相続をしなくても良いことになります。
ところで世の中には、相続放棄を選ぶ人も決して少なくありません。その主な理由は、「財産よりも借金のほうが大きいから」「相続争いに巻き込まれたくないから」などなど、様々です。いずれの理由であれ、相続放棄を選んだ人、または選ぶ予定の人は、火災保険の被保険者が死亡した際において、安易に自分名義に変更をしないよう注意してください。
名義変更が民法940条に抵触する恐れあり
第940条(相続の放棄をした者による管理)では、次のような規定が明言されています。
「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」
この条文の意味を簡単に言うと、「正式な相続人が相続財産の管理を始めるまでの間は、相続放棄をした人がしっかりと財産の管理をしなさいよ」ということです。ここで言う「管理」の中には、相続放棄をした人が「保険の名義を自分名義に変更しても良い」という内容までは、含まれないと解釈されています。
相続放棄をした人が、火災保険の名義を自分名義に変更してしまった場合には、「相続の法的権利のない人が相続財産を引き継いだ」とされ、他の相続人たちとの間でトラブルに発展する可能性があります。
また、反対に、相続放棄をする前に火災保険の名義変更をした場合、「財産相続の意思がある」とみなされることになるため、相続が決定するまでは名義変更をしない方が良いでしょう。
相続放棄したものの火災保険に加入したいという人は、名義変更で火災保険を自分のものにするのではなく、新たな火災保険に加入するようにしましょう。[2]
名義変更されていない火災保険の保険金支払いについて
相続を放棄した、忘れていたなど、様々な理由で火災保険の名義変更手続きが行われていないというケースもあります。そのような状態で、万が一、火災保険の被保険対象である住宅に火災が起きたら、保険金はどのようになるのでしょうか。
まず、名義変更をしていなくても、保険金は支払われます。火災保険の契約がなされていて、きちんと保険料が支払われてさえいれば、契約としてはずっと継続されているからです。そして、その場合、保険金の支払いを受けるのは「法定相続人」の中の相続放棄をしていない人となります。
つまり、相続放棄をしていない法定相続人が存在すれば、保険金は受け取れます。ですが、名義変更をしていないと、支払いの手続きがスムーズにできなくなるということは十分あり得るため、通常よりも支払いが遅くなる可能性は高いでしょう。そのため、名義変更をしなくても良いという理由はありません。
また、火災保険料を年払い、月払いで支払っていて、契約者の口座からの引き落としで設定されている場合は、保険料が口座振替不能になってしまいます。そうなると、火災保険自体が強制解約になる可能性もあるので、名義変更や相続手続き、支払い口座の変更は、なるべく早めにしておきましょう。