火災保険でリフォームというのは本当?
ここでは、火災保険を使ったリフォームに関して、その正しい方法や悪徳業者の手口などを詳しく解説します。なお、このページで言うリフォームとは、通常イメージする増改築のことではなく、建物の破損等による修理のことを指します。
一般的な火災保険の範囲
火災保険の補償範囲は、保険会社によって多少の違いはあるものの、おおむね以下の被害となります。
- 火災
- 落雷
- 破裂・爆発
- 風災・雹災(ひょうさい)・雪災
- 水災
- 建物外部からの物体の落下・飛来・衝突による被害
- 漏水などによる水濡れ
- 騒擾・集団行動等に伴う暴力行為による被害
- 盗難による盗取・損傷・汚損
- 不足かつ突発的な事故(破損・汚損など)
上記の被害への対応において各種費用が生じた場合、その費用についても補償される場合があります。たとえば、火災の被害の拡大を防止するために消火器を使用した場合、その消化器の再調達費用などです(損害防止費用)。
なお、仮に建物や家財に何らかの被害が生じたとしても、その原因が経年劣化によるものと判断される場合、その修理費用は火災保険では補償されません。[1]
火災保険を使ったリフォームは、この「経年変化」と「自然災害」の区別が難しく、この後でご紹介する悪徳商法は、その判別の難しさを利用したものだと考えられます。
例えば、雨どいが壊れていたという例であれば、雨どいの受金具が破損していた場合、経年劣化でダメージが加わって壊れた可能性もありますが、自然災害によって破損した可能性もあります。どちらと判断されるかは、保険会社に送付する被害写真や、状況を判断しに来訪する鑑定人によって決定されます。
そのため、保険会社を通していないにも関わらず、業者が「火災保険でリフォームが可能」と判断することはできません。
火災保険の保険金をネタにした悪徳商法が急増中
近年、「火災保険の保険金を使って住宅を修理できる」という趣旨の悪徳営業事例が急増しています。実際に国民生活センターに寄せられた声から、保険金リフォームに絡む悪徳営業の実態を見てみましょう。
事例1
「リフォーム関連を名乗る業者が我が家に来訪し、雨どいが壊れていることを指摘されました。その業者は、火災保険の保険金を使えば自己負担なくして修理が可能との説明をし、保険金の範囲内で修理をする約束をしてくれたため、安心して工事を契約。見積もりを取ってもらったところ、修理費用は50万円でした。しかしながら、のちに保険会社から支払われた保険金は、わずか8万円。50万円もの工事を8万円でやってくれるとは、とても考えられません。結局、差額の42万円は自己負担となるのでしょうか?解約したいです。」
事例2
「ある業者から、火災保険の保険金の範囲内で家の修理が可能と言われ、工事を契約しました。ただし契約の際、①保険金が出たら速やかに全額業者に振り込む、②顧客都合でキャンセルした場合、違約金等として見積もり金額の40%を業者に支払う、という2つの条件が付けられました。契約を終えると、業者は何の打ち合わせも行なわず対応が不誠実に。きちんと対応して欲しいと申し入れたものの、打ち合わせは必要ない旨や、保険金が出たら工事を始める旨などを語るのみ。納得できないので解約したいのですが、違約金等が余りにも高額なため、どうして良いか分かりません。」
保険金をネタにした住宅改修のトラブルについて、国民生活センターに寄せられた相談件数は、2007年には28件だったものの、2013年には707件まで急増しています。[2]
保険金をネタにした悪徳業者から身を守る方法
上で紹介したような悪徳業者の営業を回避する方法として、以下の3点をしっかりと覚えておきましょう。
1.「保険金だけで修理可能」という営業は無条件に断る
確かに、自己負担なくして保険金だけで修理が可能な事例はあります。しかしながら、保険金がいくら支払われるかを、被保険者が事前に知ることはできません。実際に支払われる保険金の額を知らない段階で、「保険金だけで修理可能」と判断することはできない、ということです。そのような趣旨の訪問営業・電話営業があった場合、無条件に断ることが得策です。
2.契約を急ぐ業者とは関わらない
多くの悪徳業者は、消費者に十分な考える時間を与えず、契約や着工を急ぐ傾向があります。十分な説明を割愛する業者や、工事内容が不明瞭なまま代金の支払いを求めてくる業者、着工を急かしてくる業者は悪徳業者である可能性が高いと判断し、関わらないようにしましょう。
3.制度・法律を利用して契約を解除する
万が一、悪徳業者と契約を交わしてしまったと気づいた場合には、制度や法律を利用して速やかに契約解除をするようにしましょう。訪問営業や電話営業などで交わした契約は、契約後8日間であれば、クーリングオフ制度を利用して契約解除することができます。また、法で定められた書面が交付されていない場合には、8日間を過ぎても契約解除できる場合があります。さらには、契約書の内容を根拠に不当な違約金等を請求された場合、消費者契約法に抵触する可能性もあります。[2]
また、契約をしてしまった後のことを相談できる機関もあるので、うまく活用すれば冷静に対処できます。
- 独立行政法人 国民生活センター「消費者ホットライン」
188(局番なし電話番号) - 一般社団法人 日本損害保険協会 そんぽADRセンター「損害保険相談・紛争解決サポートセンター」
0570-022808(通話料は有料)
国民生活センターの「消費者ホットライン」は、購入した商品やサービス全般について相談でき、専門の相談員が問題解決に導いてくれるサポートセンターです。
一方、そんぽADRセンターの「損害保険相談・紛争解決サポートセンター」は、保険商品に関するトラブルの解決をメインに行っています。火災保険の悪徳商法についてのトラブルなら、どちらに電話をしても解決の糸口が見つかるでしょう。
火災保険が補償している「破損・汚損」とは
火災保険と修理・リフォームに関連して、火災保険が補償している「破損・汚損(不測かつ突発的な事故)」についても確認しておきましょう。「破損・汚損」とは、簡単に言えば「故意ではなく、うっかり起こしてしまった建物・家財の被害」のことです。
「破損・汚損」は自然災害に比べると被害額は小さいですが、保険金請求件数の割合としては、火災保険の中でも最も高い割合となっています。三井住友海上によると、「破損・汚損」の支払金額の割合は18%ですが、支払件数の割合を見ると47%にも上っています[6]。
火災保険を利用する方の約半数が「破損・汚損」の被害で利用しているということですから、その利用範囲はかなり広いということです。万が一に備えて、「破損・汚損」で保険金が受け取れる例と、保険金の計算方法を把握しておきましょう。
破損・汚損の例
【住宅の場合】
- 子供が室内でボール遊びをしているときに、誤ってボールを窓にぶつけてガラスを割ってしまった。
- 掃除中に掃除機をドアにぶつけ、ドアが破損してしまった。
- 住宅傍の道路を走っていた自動車がぶつかってきたせいで、建物や塀が破損してしまった。
【家財の場合】
- うっかりジュースをこぼしたため、パソコンが壊れてしまった。
- 子供がぶつかったためテレビ台からテレビが落下して、画面が映らなくなってしまった。
なお、「破損・汚損」の保険金を請求する際に覚えておきたいのが、自己負担額という概念。保険金の計算式は、次のようになります。
損害額 - 自己負担額 = 保険金
害額が10,000円で、かつ自己負担額が10,000円の場合、支払われる保険金は差し引き0円ということになります。 被害が大きい場合には差し引きの保険金もプラスになる可能性がありますが、被害が小さい場合には保険金が0円になる可能性もある、ということを覚えておいてください。
火災保険の保険金で修理・リフォームをする手順
火災保険が対象とする事由によって建物や家財に被害が生じた場合、次のような手順で保険金を申請します。
1.被害写真と工事見積書を用意する
保険金を申請する場合、原則として被害状況の証拠写真は必須の添付書類となります。また、工事業者からの工事見積書も必要です。
2.保険会社に保険金支払い申請書の送付を依頼する
契約している保険会社に電話を入れ、被害の概略を説明するとともに、保険金の支払い申請に必要な書類一式を送付してもらいます。
3.書類に必要事項を記入のうえ保険会社に返送する
保険会社から送付されてきた書類に必要事項を記入のうえ、工事見積書と証拠写真を添付して保険会社に返送します。
4.鑑定人が被害状況を確認に来訪する
被害が軽微であれば、返送した書類のみで保険金の額が決まります。ただし、保険金の額が大きくなる可能性のある被害を受けた場合は、保険会社の鑑定人が被害状況の確認のため、自宅に来訪することがあります。
5.保険金の額が確定する
支払われる保険金の額が確定したら、保険会社から金額を知らせる電話が入ります。
6.保険金が振り込まれる
保険金の額の連絡が入ってから、おおむね1週間前後で、指定の口座に保険金が振り込まれます。
以上が、火災保険の保険金を申請する手順となります。これら手順を経て支払われた保険金を使い、修理・リフォーム費用の一部、または全部に充てることとなります。なお、被害状況の証拠写真さえあれば、修理・リフォーム完了後や、工事費用の支払い後でも保険金の支払い申請をすることが可能です。